仲直りの方法





ある日ささいなことで2人は喧嘩した。
その喧嘩の発端はもはや思い出せないほど小さなことで。

言い争っているうちに、だんだんとお互いが引くに引けなくなって、
最終的には言い返せなくなり、涙をこらえながら家を飛び出した。

ーーーーーバタンッ

玄関のドアが閉まると、先程とは打って変わって静まり返る家。

そのまま東金はリビングのソファに腰をかけた。
そのソファはいつも2人で座っていたからか、いつもよりも大きく感じる。
また、見渡した家の中も1人だと広く感じて、東金は大きなため息をついた。

ソファの背もたれに体を預けてゆっくり目を閉じると、
先日土岐が家を訪ねてきた時のことを思い出した。


その日は次のライブのための打ち合わせを行っていた。
俺が話の途中に楽譜を取りに行き、リビングに戻ってきた時だ。

土岐とが話をしていて、俺はリビングに入ったところで足を止めた。

『なぁ、ちゃん。もし、千秋と喧嘩したらうちに来てええからね』
『え?急にどうしたんですか?』
『千秋は行く場所なんてなんぼでもあるけど、ちゃんは神戸に来よったばかりでほかに行く場所なんてないんやし』

突然真面目なトーンで話始めた土岐を、は困った顔で見つめている。

『…それじゃ、なるべく喧嘩しないように気を付けますね』
『俺としてはいつでもウェルカムやから、それだけは覚えといて?』
『はい、ありがとうございます』

会話が終わると同時に、土岐は俺の方をちらっと見て小さく笑った。
その言動はまるで俺に対しての忠告のようにも見て取れて。

俺はゆっくりと目を開けて小さく呟く。

「行く場所がない…か」

今年の3月、関西の大学に合格したは、横浜から神戸に移り住んだ。
それから数カ月、時々横浜にいる如月弟や支倉に電話をかけては
話し終わると寂しそうな顔をしている彼女を何度か見かけた。

そんな彼女に俺は一度だけ『淋しいのか?』と聞いたことがある。
すると、その言葉に一瞬驚いた表情をみせるも『東金さんがいますから大丈夫ですよ』といつものように笑う
強がっているのはすぐにわかり、胸が締め付けられて衝動的に彼女を抱きしめた。

『淋しかったら、横浜に遊びに行ったらいい』とか、
その時にかける言葉はたくさんあったはずなのに、何も言いだせなくて。

「…ちっ…」

東金は軽く舌打ちをして、ソファから立ち上がる。
窓の外は暗く、雨が降り始めていることに気づくと、慌てて携帯電話と傘を握りしめて外へ飛び出した。


























『おかけになった電話は電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため…』

「くそっ…」

家を飛び出したに電話をかけてみるが、電源が切られているのかつながらない。
辺りは家を出た時よりもさらに暗くなっていて、
雨足もさらに激しくなり、東金は急いでがいそうな場所を探し回った。

いつも2人で行くカフェ。
家と駅の間にあるコンビニ。
の大学。

思い当たる場所を片っ端から探しても、見つけることができず
だんだんと、焦りが大きくなっていく。

「はぁ…はぁ、あいつ…」

ずっと走り続けているため息切れするも、東金は必死に思い当たる場所を回った。
ふとある人物の顔を思い出し、足を止めて電話を掛ける。

「あー、千秋。なんかあったん?」

電話の向こう側で、呑気にあくびをしている土岐。

「蓬生、お前のところにあいつはきてないか?」
ちゃん?おらへんよ。……まさか、喧嘩でもしたん?」

俺の声で状況を察したのか、土岐の声のトーンが低くなる。

「携帯は?」
「電源が入ってないのか、つながらない」
「そう…。ほな俺も近場探してみるわ」
「…あぁ、頼む」

土岐は電話の向こうで大きなため息をついた。

「…なぁ、千秋。ちゃんには今すぐ頼れる場所一つしかないんやで?」
「わかってる」
「ちゃんと彼女幸せにせんと、いくら千秋でも許さへんよ」

電話が切れると、東金はまた雨の中を走り出した。
雨は一向に止む気配もなく、傘が壊れてしまった俺はずぶ濡れのまま空を見上げる。

『…今すぐ頼れる場所一つしかないんやで?』

今更後悔しても遅いのに、その言葉に胸が苦しくなって、その痛みを隠すようにがむしゃらに走った。



























「はぁ…。携帯も壊れちゃったし、雨もすごいし、財布も忘れたし…どうしよう」

は公園の大きなドーム型の滑り台の中で、膝を抱えて雨宿りをしていた。

東金と喧嘩をして家を飛び出した後、行くあてもなく家の傍の公園のベンチに座っていると
突然雨が降り出してきたため、慌てて遊具の中に駆け込んだ。

誰かに連絡を取ろうにもとれない状況なのは携帯電話が故障しているため。
遊具に慌てて駆け込んだ時に、手にしていた携帯電話を誤って水たまりに落としてしまい電源が入らなくなった。

雨足は一気に強まり、そのまま大人しく待機することにしたのだが
辺りは暗くなり、遊具の中は雨の音が余計に響く。

孤独に押し潰されそうになって、膝を抱える腕により一層力を入れた。

「…千秋さん…」

喧嘩をするといつもなら私が先におれて謝って、すぐに仲直りしていたのに、
なぜか今日は引くことができなくて。
結局最後には何も言い返せなくなって家を飛び出してしまった。

「…心配してるかな?…それとも」

呆れられたかな?

1人でいると不安がどんどん大きくなって、はため息をついた。
遊具の入口の外を見ると、雨が今も激しく降って視界を遮っていて、まるで真っ暗な闇の中に一人取り残されているようだった。

両親は仕事で海外にいて、いつも一緒にいた響也やニアは横浜。
そして祖父は長野で、頼りになる人たちの元へはすぐに行くことができなくて。

土岐の顔が一瞬思い浮かんだものの、携帯が壊れた今となってはどうすることもできず
まだ数か月しか経っていない神戸では、東金がいないと改めて孤独であることを痛感する。

は涙があふれそうになるのをこらえて、抱えていた膝に顔をうずめようとした。

その時だった。

「…やっと、見つけた」

遊具の入口の外から突然聞こえる優しい声。
はその声の方へ振り向くとそこには、遊具の入口の前でしゃがんで中を覗きこんでいる東金がいた。

「ったく、心配させやがって…」

東金は傘を持っていないのか、ずぶ濡れだった。
の顔をじっと見つめたまま、濡れた髪をかきあげて手を伸ばす。

「フッ、まるで野良猫みたいだな。…ほら、さっさとでてこい」

こらえていた涙が、うれし涙にかわって溢れ出していく。
差し出された手を取って、思い切り東金に抱き着くと、それを受け止めるように彼もまた強く抱きしめ返した。

「風邪ひくから、さっさと帰るぞ」
「はい!」

の返事と同時に抱き合っていた体は離れ、2人は手を握って雨の中走り出した。




























「ち、千秋さん、ちょっと待ってくださいっ!」

家に入ると東金は、を両腕で抱き抱えて浴室に向かった。
浴室で降ろされたものの、すぐに壁に押し付けられて乱暴なキスを落とされる。

東金はの口を奪いながら、右手でシャワーのハンドルをひねると
少し熱めのお湯が2人をめがけて一気に噴き出してくる。

ーーーーシャーッ

雨でぬれていた服がさらに濡れて、洋服が体に張り付いていく。
それを恥ずかしそうに腕で隠すに、東金は意地悪な笑みを浮かべた。

「ふっ...今さらかくす必要なんてないだろうが」

そういって、またの唇と舌を貪るように奪う。

「…んっ…んんっ」

シャワーに濡れながら二人は何度も深いキスをして、舌を絡ませる。

東金はの服を器用に脱がせて、首筋に優しくかみつき、
大きな手でが感じる場所を愛撫していく。

「…あぁ…んっ…ぁっ!」

浴室のせいで、いつもよりも声が響き渡る。
声を抑えるため、は自分の口を手で塞ぐものの
次々と与えられる刺激に、我慢している声は漏れてしまう。
浴室内に声が響き渡るたびに恥ずかしくなって、さらに感度が上がっていく。

顔を赤くして涙目のまま、倒れないよう必死に浴室の壁に体を預けながら、
声を我慢するをみて、東金の理性は既に限界だった。
の濡れそぼった場所に東金の長い指が一本入ってきて、思わず声をあげる。

「あぁっ!」
「そうだ、…そのいい声をもっと聞かせろよ」

まるで獣のように低い声での耳元でささやいた。
与えられる刺激から逃げようと、身じろぎをして逃げようとするも、東金に抱きしめられてしまって動くことができない。
指はさらに2本に増えて、彼女の中をかき回した。

ーーーーグチュッ、グチュッ…

シャワーの音と、の声、そして卑猥な音が浴室に不協和音のように響き渡る。
は与えられる刺激によって限界が近くなり、口を押えていた手を東金の首に回した。

「ぁっ!もっ…ち、あきさ…んっ!それ以上し…たらっ…っ!」
「…まだだ」
「あっ…」

限界を迎える寸前で指を一気に引き抜かれてしまい、刺激を突然止められたは甘い吐息を漏らした。
失った刺激に体は痺れを感じて、涙目で訴えるように東金を見つめる。

「ふ…、いい顔だな」
「…ど…して?」
「…今仲直りするなら、一番欲しいものをくれてやるよ」
「…っ!」
「ごめんね、は?」

意地悪な表情を浮かべての顔をじっと見つめている東金を一瞬睨んだものの
この状況となっては勝てるはずもなく、観念したのか小さく息を吐いた。

「…ごめ…んなさい」

東金はその言葉を聞くと、「俺も悪かった」との耳元で謝罪した。
そしてそのまま彼女を抱きかかえ、濡れそぼった箇所へ自身をあてがった。

「…ぁっ!」

ーーーーズプッ…

ゆっくりとの体に腰を押し付けていく。
熱いモノが奥まで達すると、一度動きを止めての首筋にキスを落とした。

「…千秋さ…ん?」

体がつながったまま、まるで自分のものだという印をつけるように
の首元や頬にキスを落としていく。

「…もう、二度と俺の前からいなくなるなよ?お前はノラ猫じゃねぇ、お前は全て俺のものだ」

小さな声でささやくと、東金はゆっくり腰を動かし始めた。

「あっ…!」

そして次第に激しくなってくる動きに、は声を抑えられなくなって東金の体にしがみつく。

「ぁっ!あぁっ!…んっ!!」

何度も何度も激しく腰を打ちつけられて、浴室に響き渡る水音。

ーーーーグチュッ、グチュッ…

「ぁっ…ち…あき…さっ!!」
「……っ!」

は押し寄せる波に何も考えられなくなって、東金の背中に思い切り爪を立てた。

「ふぁっ…っ、あっ!も、い…くっ!」
「…くっ!」

そして二人はほぼ同時に絶頂を迎えた。

体の力が抜けたは、そのまま東金の胸に倒れこんだ。
東金は浴槽に腰をかけてそんな彼女の体を抱きしめる。

浴室はシャワーの音だけが響き渡っていた。
しばらくして、東金は胸の中にいるのおでこに優しいキスを落とした。

「……千秋さんは、ずるいです…っ」
「ん?」
「あんな状態で無理やり謝らせるなんて…」

恥ずかしそうに顔を赤らめて頬を膨らます彼女があまりにも可愛くて、東金は抱きしめる腕に力を込めた。

「こうでもしないと、喧嘩が終わらないだろ」
「でも、それじゃ...」

東金は何かを思いついた表情をして、の言葉を遮った。

「あぁ、いいこと思いついた」
「な、なんですか?」
「これから喧嘩をしたら、すぐに一緒に風呂に入る。それが、この家の新しいルールだ」
「え?!」
「そうしたら、すぐに仲直りできるぜ?」
「ええ…っ!!」

名案だな、と嬉しそうに笑って突然鼻歌を歌いだした。
そうやって幸せそうにしている東金に、は小さなため息をつくものの顔を緩ませる。

喧嘩して、仲直りして、笑いあって。

これから何度喧嘩をしても、こうやって2人で幸せに笑っていられるなら、
そんなルールも悪くないなと思う。

「でも、たまには千秋さんからも謝ってくださいね?」
「…まぁ、10回に1回ぐらいは考えておく」
「少ないです!」
























喧嘩の原因はどちらにあっても。
例え、謝る言葉なんて必要なくても。

二人がいつまでも一緒にいれるように、仲直りをしよう












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久しぶりの更新で、久しぶりに18禁書きました。
なんか、東金のシリーズが18禁ばかりになっててすいません。
俺様な東金を書きたかったもので、こんな感じになってしまいました。

どっちもどっちな喧嘩って同棲したらよくあると思うんですが、
東金だったら相手を先にうまーく謝らせそうだなと思って書いてみました。
まぁ、ただやってるだけなんですけど。汗

いつも読んでいただいてありがとうございます。
これからもよろしくお願いいたします(2016/6/23)



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