ちぐはぐな体温





「おい、地味子。もう今日の練習は終わりだろ?さっさと帰るぞ」

2人練習を終えた東金はに声をかけた。
すると、は「はーい」と返事をしてささっとヴァイオリンを片付ける。

土曜日の夕方、来週末にがまとめている合奏団が
コンサートを開くためアンサンブルで演奏する曲を2人で練習した。

外に出ると12月のせいか、冷たい空気が2人を包みこむ。
コートを羽織っていても、二人がはく息は白く空にのぼっては消えていく。
そんな白い息を見て、ふとはつぶやいた。

「もう、冬ですね」
「12月に入ったしな」

たわいもない話を2人でしながら、暗くなった帰り道を歩いていた。
12月に入ったせいか、街中はクリスマス用のイルミネーションなどの装飾で飾られていてキラキラと輝いていた。

「あの…すみません。さんですよね?」

元町通りを歩いてた二人の横から声をかけてきたのは見知らぬ一人の男性。

「合奏団の演奏を聞いてファンになったので、ぜひ受け取ってください!」

そういって手渡されたプレゼント。
はプレゼントを受け取ると、笑顔でお礼をいって会釈をする。
男も笑顔でその場を後にした。

その様子を終始不機嫌な顔で見ていた東金。
それに気づいたは苦笑する。

「東金さんも、合奏団の一員なんで嬉しそうにしてください」
「…ふん、あいつはこっちをこれっぽっちも見てなかったぜ」

がまとめている合奏団は秋からコンサートを何回か開き、その都度成功したためか今ではだいぶ知名度があがっている。
確かに、技術や知名度の高い冥加や東金が合奏団に加入していることは大きいかもしれないが、
何より演奏する曲の構成や、のさまざまな地道な努力によってここまで合奏団は成長してきた。

の活躍は彼女を想う東金としても本望だが、気に食わないのはステージ以外で彼女自身がどんどん注目されていくことだ。
女性、子供はもちろんのこと、男性までものファンが増えている。
そのため最近道端で声をよくかけられることがあり、東金としては気が気でなかった。

「あ、さん!!僕あなたのファンでして、これもらってください!そしてよければ裏に書いてある番号に…」

東金が目を放している隙に、少し離れた場所ではまたファンから声をかけられてプレゼントをもらっていた。

(人の気も知らないで…あいつは)

つい最近東金はから、別の人のラブレターを手渡されて
彼女が自分の気持ちに全く気付いていないことがわかりショックを受けていた。

東金はそのことを思い出して大きなため息をつくと、彼女のもとへ歩き出した。
の傍にいる男は、東金の鋭い視線に気づくと突然表情を変えて、プレゼントだけ渡して逃げるように去って行った。

いつの間にか、の両手にはヴァイオリンケースのほかに大きな紙袋が二つ。
その中にはたくさんのプレゼントが入っていて、東金は苦笑する。

「お前は、馬鹿か。そんなにもらって何に使うんだ」
「使い道はわからないですけど、せっかくファンの方からもらったものですし!」

そういって、は嬉しそうに笑った。

「それに、プレゼントがうれしいっていうよりも、普段クラシック音楽を聴かないような人が
合奏団を通じてクラシックをきいてくれるのは嬉しいですから。動機はなんであれファンがたくさんできるのはいいことですよね」

笑顔で話すの顔をみて、東金はドキっとした。
自分が大切にしていることが彼女と似ていたからだ。

東金自身も、典型的なクラシックファンだけでなく、
普段クラシックになじみがないような人に聞いてもらえるように、曲の編成をしたり、アレンジを加えて演奏をしている。
例えそれが作曲家に対する冒涜だと言われても、クラシック離れと言われている今、
新しい音楽の形を目指すことがクラシックを愛してもらえる一つだと信じているからだ。

「あと、東金さんが、ファンを大切にしているのをみてすごいなって思って。
合奏団をまとめるのも、東金さんをいつも参考にしてるんですよ」

優しく東金に微笑んだ彼女をみて、東金も顔を緩ませた。
今はまだ恋人ではないけれど、少なからず彼女の中に自分がいることがうれしくて。
そして、今まで以上に彼女を愛おしく感じ、ますます彼女を欲しくなった。

「ほら、貸せよ」

の手からプレゼントの入った紙袋を半ば強引に奪うと、左手でヴァイオリンケースと大きな紙袋を持ち
空いている右手をの目の前に差し出した。

「へ?」
「俺もお前のファンの一人だからな。受け取れ」
「え、何を…?」

は東金に差し出された手を見て、しばらく首をかしげていると
そんなにしびれを切らした東金は彼女の空いている左手を掴んで歩き出した。

「と、東金さん?」
「ったく、お前はどこまで鈍感なんだ」
「えっ?」
「俺が直々に菩提樹寮までエスコートしてやるっていってるんだ。感謝しろよ」

の冷たくなった手を包み込む温かい大きな手。
一歩前をの手をひいて歩く東金は幸せそうな顔で歩いていた。
手を繋がれて伝わってくる温かいぬくもりに
の胸はドキドキして今まで感じたことのない感情が込み上げてきて顔が赤くなった。

「東金さん、は、恥ずかしいです…」
「ファンからのプレゼントはなんでも受け取るんだろう?」
「それとこれとは別です…っ!」

慌てると、そんなを見て笑う東金。
冷たい寒空の中2人の笑い声が響いた。

2人の気持ちが同じになるときは、きっとちぐはぐな体温が同じになるときで。

それはそんなに遠くない未来の話。










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両想い前のほのぼのを書きたかったので書きました。
コルダ4慣れてくると、結構一般人からのプレゼントが増えてきませんか?
一回通りを歩くだけで5,6個もらったことがあって、こりゃ攻略対象がそばにいたら
妬くだろと思いながら妄想して書いてみました。

ちょっと今週はバタバタで疲れたので、こういうほのぼのが書きたかったんです^^;

タイトルのお題はAlice666様からお借りしました。
ありがとうございました!(5/22/2016)



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