おいしいティースカッシュの作り方






2月上旬の週末のこと。
菩提樹寮のラウンジで、東金と土岐、芹沢と4人でテーブルを囲んで座っていた。
今度横浜でバレンタインライブをするため、3人は会場の下見をし、
終わった後に東金は彼女であるに会いに菩提樹寮に来たのだが、土岐と芹沢も一緒についてきて今に至る。

「なんで、蓮生も芹沢もついてくるんだ」

2人がついてきたことに不満なのか、不機嫌な顔をしている東金は大きなため息をついた。

「堪忍してや、みぞれ混じりの雨が降ってる中外にいたら寒いし」
「先に神戸に帰っていればいいだろ」
「こんなに濡れたままやったら、凍え死ぬわ」
「倒れても芹沢が連れて帰ってくれるさ」
「…俺はお守りで来ているわけではないので、勘弁してください」

三人のやり取りを聞いていたはどうにか場をしずめようと
不機嫌そうにしている東金をまぁまぁとなだめた。

ちゃん、ほんまあんたの彼氏はえげつないから気ぃつけえよ」

土岐はそういって、から借りたタオルを使い長い髪の毛を拭きながら
そのままの隣に座った。

「…蓮生はあっちだ」
「千秋は右で、左は空いとるからええやん」
「…ちっ」

東金はまた不機嫌そうに軽い舌打ちをすると、の肩をぐいっと掴んで自分の方に引き寄せた。
その様子をみて土岐は苦笑する。

「…独占欲の強すぎる男は嫌われるんちゃう?」
「余計なお世話だ」

普段は仲がいいのに、土岐がにくっつこうとすると決まってこういう展開になる。
それをわかって土岐は楽しんでいるのだが、相変わらずのやりとりにと芹沢は目を見合わせて苦笑した。
場の空気をかえようと、はすっと立ち上がって3人の顔をみる。

「あ、そうだ。みなさん何か飲まれますか?」

その問いかけにすかさず東金が食いついた。

「ティースカッシュがいい」

季節は冬。
外はみぞれ交じりの雨が降っているが、菩提樹寮のラウンジには東金が寄付した高性能のストーブが置いてあり
室内は少し汗ばむほど暖かくなっていた。
そのため冷たい飲み物を飲みたくなったようだ。

「じゃ、俺も」
「俺も、それでお願いします」

土岐と芹沢も続いて同じものをお願いするとは微笑んだ。

「わかりました。ちょっと待っててください」

そういって、はキッチンの方へ一人向かって行った。




















紅茶を入れて、購入してあったフルーツを取り出す。
半分は絞るようにカットして、残りの半分はジュースの中に入れるように小さくカットしたオレンジとグレープフルーツ。
手際よく進めていると、突然後ろからぎゅっと抱きしめられた。

「きゃっ!」

突然感じる温もりに、びっくりして一瞬固まる。

「と、東金さん!?」
「へぇ、こうやって作るのか」

東金はを背中から抱きしめて、彼女の手元を覗き込むように見つめている。
抱きしめられながら、手元をじっと見られていることで、はドキドキして鼓動が早くなり顔も赤くなる。

「あ、あの…すごくやりづらいんですけど」
「俺はこのままがいい」
「うーー…」

本当に嫌であれば東金は離れてくれるのだが、も恥ずかしいだけで、彼氏に甘えられて本当に嫌なわけではない。
そのことをわかっているからか、離れそうにない東金にあきらめて残りの作業を進めてく。
グラス4つに氷と、カットしたフルーツをいれて。
濃いめに入れた紅茶を入れ、砂糖と炭酸水を入れていく。

「お前が作ったティースカッシュが一番おいしいのはなぜなんだろうな。芹沢に作らせてもやっぱり違う」

東金の言葉には微笑んだ。

ジルベスタ―コンサート前、東金に一度差し入れしたティースカッシュを喜んでくれて
好きな飲み物だと知ってから、は時折自分で作ったティースカッシュを渡していた。
おいしいといっていつも飲んでくれたから、何度も彼に差し入れをした。

一番おいしいのは当たり前だ。

「それは東金さんへの気持ちがいっぱい込められてるからですよ」
「っ…」

幸せそうには笑って、
最後の仕上げとして隠し味の小さじ一杯のレモン汁を入れて、ミントの葉をのせた。
の言葉を聞いて、東金の顔は赤くなる。

(…本当に、こいつには敵わない)

高鳴る鼓動がにばれないように、抱きしめていた腕を少し緩めて咳払いをした。

、俺にティースカッシュの入れ方を教えろ」
「ええ!?」
「今からオレが蓮生と芹沢の分を入れて、お前が入れた奴は全部オレが飲む」

東金はから離れるとキッチンの前に立ち、やる気満々に腕まくりをしている。

「あいつらに、おまえが作ったティースカッシュはもったいないからな」

ふんっと鼻を鳴らして、包丁をぎこちなく持つ東金。
その姿をみては笑った。

「じゃぁ、私の分も作ってくださいね」

顔を覗き込んでお願いをすると、「まかせておけ」といって東金も笑った。

























「なんか千秋のティースカッシュと、俺たちのティースカッシュの見栄えがぜんぜんちゃう気がするんやけど」
「あ、私たち3人のティースカッシュは東金さんが入れてくれました」
「「え?!」」

いびつに切られた果物の形。
紅茶の濃さも少し薄目で。
東金が持っているティースカッシュとは別の飲み物のようだ。

「…確認ですが毒は入っていませんよね?」

芹沢は、少し冷や汗をかきながら手渡されたティースカッシュを見つめている。
その隣では土岐が眉間にしわを寄せながら、東金のティースカッシュを指さしていた。

「俺もちゃんが入れてくれたティースカッシュが飲みたい」
「文句を言うなら自分で水でも入れて飲め」
「うわぁ、いけずで人でなしー」

土岐の文句をさらっとかわしながら、東金はが作ったティースカッシュを嬉しそうに独り占めしていた。
も、初めて東金が作ってくれたティースカッシュを飲んで幸せそうにしている。

そして、その日からがティースカッシュを東金以外誰にも作ってはいけないルールができたとか、できないとか。












最後の仕上げは小さじ1杯のレモン汁と
たくさんの愛情を詰め込んで


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ジルベスタ―コンサート後の2月。
付き合っている二人の一コマです。甘々になりました。

コルダ4でプレゼント何度も渡しましたが、
響也のコンポタとか土岐のチャイとかは冬の差し入れとして納得してましたが、
東金のティースカッシュは冬に寒いだろうなーと思ってました。
(ティースカッシュってホットもあるのかな。。。?)




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