雷鳴





いつものようにオケ部での練習が終わり、
響也とは2人で菩提樹寮の食堂で夜ご飯を食べてそれぞれ部屋に戻った。
響也は風呂に入って寝る支度をして、ベッドの上で漫画を読んでいた。

ーーーーーーーーザァァ…

窓の外から聞こてきたのは雨の音。
先程までは降っていなかったのに、雨音はだんだんと強まってしばらくするとまるで嵐のような音になった。

「すげぇ、降ってきたな…」

響也はベッドから降りると、窓の外を見て様子を確認する。
すると、突然目の前がピカッと光り、数秒後に大きな雷鳴が聞こえた。

ーーーーーーーーーバリバリッ、ドーンッ!

「うわっ、結構近いところにおちたな」

響也はカーテンを閉めると、慌てて携帯電話を手にした。
そして、ある人物に電話をかけようとしたがその手の動きはすぐに止まる。
廊下からパタパタと足音が聞こえてきて、部屋の目の前で音が止まるとドアが突然開いた。

「響也……っ!」

部屋に入ってきたのは、涙目になっただった。
彼女は響也を見るなり、すぐさま胸の中に飛び込んでくる。

「ったく、部屋に入るときぐらいはノックぐらいしろよ」

口ではそういいながらも、胸の中で小さくなっているをいつもよりも優しく抱きしめて頭を撫でた。
風呂あがりなのか、髪はまだ濡れていて、シャンプーのいい香りがして。
その状況に響也はドキっとする。

「ごめん、だって雷が…」
「お前、ほんと昔から雷苦手だよな」
「…雷を好きな人なんていないよ」

の言葉を聞いて、響也は2人がまだ幼かった頃のことをふと思い出した。







まだ響也もも小学生だった夏の日のこと。

2人で学校の帰りに近所の公園で遊んでいると、突然スコールに見舞われて、
公園のすぐ傍にあるバス停の屋根の下で雨宿りをすることになった。

ーーーーーーーーザァァッ…

強くなっていく雨を見つめていると、突然強い光が2人を包み込み、数秒後に轟音が鳴り響く。

『きゃっ!』

突然の雷には隣にいた響也にぎゅっと抱き着いた。

『う、うわっ!』

抱き着かれたことが恥ずかしかったのか、響也は驚いて顔を赤くするも
の怖がっている様子をみると吹き出してしまう。

『…ホントは弱虫だなー』
『う、弱虫じゃないもんっ!』

は強がって響也を睨みつけながら一回体を離すものの
また辺り一面が光って雷鳴が鳴り響くと、あわてて響也に抱きついた。

『ひっく…っ、ふえぇっ…』
『…ったく、心配すんなよ。すぐに雷は聞こえなくなるって』

震えながら泣き出すを、響也はぎこちなくそっと抱きしめる。

いつも、を守ってきたのは俺じゃなくて律だったから。
ヴァイオリンも、との関係も、何一つ律には敵わないとあきらめていたけれど、
今この瞬間、が自分を頼ってきてくれていることが幸せだった。

『なぁ、知ってるか?』
『…ん?』
『雷って光ってから音が鳴るまでの時間で近くに落ちてるか遠くに落ちてるかがわかるだろ』
『うん』
『俺にはさ、遠くで落ちた雷の音は薄いオレンジ色に、近くに落ちた雷の音は黄色く見えて意外にきれいなんだぜ』

響也は共感覚という不思議な感覚を持っていて、どんな音にも色が見えるのだという。
は響也が聞いた音がどんな色に見えているかを知りたくて、
今よりももっと小さいころから、いつも目をキラキラさせて何色に見えるのかを聞いていた。

怖い雷の音にも、きれいな色がついている。
そう考えると雷は怖いけれど、不思議と安心できた。

またしばらくすると辺り一面が光りに包まれ、先程よりも小さな音の雷鳴が響いた。

『…今のはオレンジ色?』
『あぁ、今のはみかんみたいな色だったな』
『みかん?なんか、おいしそうな雷だね』

響也の話を聞いて、はいつの間にか泣き止んで笑っていた。

『…雷はまだ怖いけど、響也がいると雷がちょっと怖くなくなる気がする』

大きく笑うに響也もつられて笑った。

『…じゃぁ、しかたねーから、これからも雷が鳴ったら俺がを守ってやるよ』
『うん!約束だよ』

響也はぶっきらぼうに指をだすと、はその指に小指を絡ませて『ゆびきりげんまん』を歌う。

その約束は年を重ねても破られることはなく
雷が鳴るたびには俺の傍に来るようになって、そして俺はいつも怯えるを安心させるようになった。

幾度となく、律に敵わないと全てをあきらめようとしても
雷鳴が響き渡る瞬間だけは二人は誰よりも近い存在になれたから。
俺は彼女に対する思いをずっと諦めないでいることが出来た。








だから、俺は雷が好きだ。








ーーーーーーバリバリッ、ドーンッ!

「…きゃっ!」

先程よりもだいぶ近くに落ちた様で、大きな雷の音が聞こえた。

怯えるは、響也の背中に回した手にさらに力を込める。
昔と変わらない彼女をみてふっと笑った。

「…お、すげぇ。今のはレモン色だ」

その言葉を聞いても響也の胸の中で、つい微笑んでしまう。

「…ふふ、想像すると酸っぱくなってきたかも」

優しく笑う彼女の頬を愛おしそうに両手で包み込んだ。

「ほんと、おまえは全然かわらねーな」
「…む、昔よりは成長してるよ!ちょっとは…っ!」
「ま、大泣きしなくなっただけマシか」
「う…っ」

言葉に詰まったの額にキスを落とす。

「きょ、響也?!」
「別にいいよ、お前はそのままで」

何度もあきらめようとした二人の関係を、ずっとつなぎとめていた雷。

「約束したろ?俺がお前をずっと守るって。雷だけじゃなくて、どんなモノからも。…これからは恋人としてさ」

は顔を赤くしながら、じっと響也の顔を見つめていた。

「なぁ、。雷好きな奴いないって言ってたけどさ…」

窓の外では雷鳴が鳴り響くも、大きく高鳴る鼓動にかき消されていく。
は恥ずかしくなってぎゅっと目を閉じると、優しい温もりが唇にそっと触れた。

「…っ!?」

高鳴る鼓動。
驚いた声。
感じる吐息。
雨の音。
そして、雷鳴。

2人の世界はキラキラと鮮やかな色で溢れ出す。

「…俺は、雷が好きだよ」










どんな時も二人を近づける
きれいな色をした魔法の音が聞こえるから













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3,4通して響也のお話は好きです。
3のヘタレっぷりから、4は落ち着いて大人になって。
顔を真っ赤にする回数が減ったのはさみしかったですが、
少し大人になって主人公を見守ってる感じが伝わってきて、幼馴染の関係にときめいてました。
いろいろと小さいころの話や、共感覚については捏造な部分がありますが
ご了承ください。久しぶりに響也のお話がかけて満足です(笑)(2016/7/7)




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