愛しい嘘





土曜日の夜、響也の携帯に一通のメールが届いた。


受信トレイ
2/27/xxxx 22:59
From:
明日
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明日のお出かけなんだけ
どちょっと用事ができた
から、また今度でもいい
かな?突然でごめんね。



明日、が行きたいと言っていた遊園地に2人で行く約束をしていたが
から突然行けなくなったとのメールが入った。
何か違和感を感じた響也は、少し考え込んですぐに返信する。


受信トレイ
2/27/xxxx 23:05
From: 如月 響也
Re:明日
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別にいいけど。俺がついて
ったら何かまずい用事?



一方は、響也からの返信メールを受信すると大きなため息をついた。
夕方から、咳と鼻水がでて体調が悪く、熱を測ると38度を超えていた。

「ごほっ、ごほっ…、もう、タイミング悪すぎる…」

今まで風邪や熱などの体調不良の話をすると、心配性の響也はすぐにとんできてくれた。
ただ、来月に響也はコンクールを控えているため、接触してうつったりしたらまずいのではないか、
そう考えると、は響也に体調不良であることを伝えるのを避けて、用事があるといって嘘をついた。
響也に風邪をうつしたくない、嘘をつく罪悪感はあったもののは響也に再度メールを打った。


2/27/xxxx 23:18
To:如月 響也
Re:Re:明日
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うん、ごめんね。この埋
め合わせは絶対するね!



送信ボタンを押すと同時に、体調が悪くすでに体力の限界が来ていた
ベッドの上でそのまま意識を手放したのだった。


























「ん…」

カーテンから差し込む光がまぶしくて目をゆっくりと開けた。

ーーー昨夜響也にメールを送ったあと、そのままどうしたんだっけ…

ぼやっとする記憶をたどりながら、ゆっくりと部屋を見回して意識を取り戻していく。

閉じられたカーテン、
いつの間にかおでこに貼られている冷却シート、
きちんとかけられた布団、
そして、汗をかいていたはずなのに、あまり濡れていないきれいな寝間着。

記憶をたどってもどれも覚えがなくて、は不思議に思い体を起こした。
すると足元の方に重さを感じ、視線を送るとベッドの上で伏せて眠っている響也がいた。

「…っえ!?」

驚きのあまり声がもれると、その声が聞こえたのか眠っていた響也が目を覚ました。

「きょ、響也!?なんで?!…げほっ、げほっ」

とっさに声をだしたからか、咳き込んでしまう。
響也はあくびをしながら、大きく伸びをして起き上がった。

「ったく、病人なんだからまだ寝てろって」
「…どうして体調悪いってわかったの…?」

響也はの言葉を聞くと少し考え込む仕草を見せるも笑って答えた。

「ま、お前が嘘つくのが下手だからじゃねぇの」

そういいながらのおでこの冷却シートをとって額に手を当てた。

「顔色もわるくねーし、汗も引いたみてーだし。熱は下がったかもな」

響也は近くにあった体温計をに手渡す。
それを手にしたはすぐに脇に挟んで体温を測った。
ビープ音がなって、体温計を取り出すと、「36.8度」と表示されており、響也の言うとおり熱はほとんど下がったようだった。
自身も体調がよくなったことがわかり、安堵の息をもらした。

「響也、ありがと。…あと、用事があるって嘘ついて、ごめんね?」

昨晩のメールのことを気にしているのか、申し訳なさそうには響也の顔を覗き込んだ。

昔からが俺に対してつく嘘は、決まって俺を想う優しい嘘だった。

心配をかけないようにとか、俺が傷つかないようにとか。
例えば合奏団の時もそうだった。
俺の悪口を言っていた奴がいても、俺には言わずに俺の代わりにそいつらに怒ってくれたり
一人で抱え込んでどうにかしようとする。
何かあった?と聞いても、「別になにもないよ」と言うから。

彼女の嘘は、『悪い嘘』ではなく、いつだって『愛しい嘘』で。

そして、俺はそんなの嘘を見破るたびに幸せな気持ちになる。
メールの返信のタイミングとか、いつもとは違う言葉を使っていたりとか
喋るときに手を置く位置とか、本当に些細な変化でしかわからない彼女の嘘。

それは、おそらく小さいころからずっと傍にいた俺でしか見破ることができないと自負していて、
嘘を見破るたびに俺はの一番傍にいることを実感できて幸せだった。

多分鈍感なお前はそんな俺の気持ちなんて微塵も知らないだろうけど。

そんなことを思いながら、響也はふっと顔を緩ませた。

「なぁ、
「?」
「…嘘ついた仕返し」

そういっての頬を両手で包み込んで軽いキスを落とした。

「!?」

は響也から離れようと、響也の胸を精一杯押すがびくともしない。

「だ、だめだよ…うつっちゃうから」

慌てるをよそに唇を放した響也は彼女をぎゅっと抱きしめたまま何かを考えていた。

「…響也?」
「体調は?」
「え…、うん。もう体はだるくないし大丈夫。だけど、まだ菌は残ってると思うから…」
「そっか、じゃ大丈夫だな」

の偽りのない言葉を聞くと響也はにっと笑った。

「まだ仕返しは終わってない」
「え…?」

が何かを察したのか言葉を発しようとした瞬間、響也はの口を再度口でふさいだ。
そのまま何回もキスをされて、は熱が収まったはずなのに体がだんだんと熱くなってくる。
回数を重ねる度に舌が絡まって、深くなるキスに、まるですべてを求められている様な気がして響也のことしか考えられなくなる。

しばらくキスをした後、突然響也が離れるもそのままベッドに押し倒された。

「ちょ、ちょっとまって…っ!」

慌てるに、響也は彼女の耳元でささやいた。

「そういえば、お前の爺さんが汗かくと風邪が治るって言ってたから、実践してみようぜ」
「ば、馬鹿!…だめだよ!」

そういって顔を赤くしながら響也を見つめる目は先ほどのキスで潤んでいて、響也は笑った。

「でも、顔はいいよって言ってるようにしか見えないんだけど」
「ち、ちがう!」
「…さん、やーらしー」
「う…、もう何も言わないで」

は観念したのか、小さなため息をついて響也の背中に腕を回してぎゅっと力いっぱい抱きしめた。
そして響也の口に自分の唇を優しく重ねる。

「響也の意地悪、大嫌い…」
「はいはい」

響也はの嘘を聞いて、ふっと笑うとそのキスに応えるようにの額に優しいキスをおとした。
そして赤くなったの耳元で小さく甘い声で「俺も大好きだぜ」と、ささやいた。















君の嘘は いつだって優しくて暖かくて
僕を幸せにする魔法の言葉









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コルダ4の響也√で、主人公が響也の悪口をきいて猛練習しているところに
響也がやってきて、何か様子がおかしいと気付いた響也に対しても、嘘をついて「なんでもない」と選択肢を選ぶと
それですぐにごまかしてるのがばれるっていう、あの練習室でのイベントが好きです。
なんか幼馴染って感じがして、響也は主人公のウソなんでも見破りそうだなと思って書きました。
コルダ3ではそんな感じしなかったのに、なんだろう…。だいぶ男前になった気がします。

ホントは裏要素もいれたかったんですけど、文章がうまくまとまらなかったので
すんでのところで終わりました…orz(5/12/2016)



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