promise








ずっと 傍にいて
守るって約束したんだ













「あー、やっぱり空気がおいしいなぁ」

長野に1人戻ってきたは、両手を広げて大きく息を吸った。
ジルベスタ―コンサートが終わり、月日が流れ、季節は3月。
横浜よりも肌寒く感じたが、少しずつ色づく花々が春の訪れを知らせていた。

来月から3年生。

音楽の勉強に、オケ部、受験、そして合奏団。
やらなければいけないことや、やりたいことがたくさんあって、
忙しくなる前にどうしても会いたい人がいた。

が会いたい人、それは小さいころから面倒をみてくれた優しい祖父。
ヴァイオリン職人で、ヴァイオリンの楽しさや音楽の暖かさを教えてくれた人。

、ヴァイオリンは好きか?』

小さいころから何度も祖父に聞かれた質問。

幼いころは迷うことなく大きく頷けていたのに、いつからだろう。
素直に首を縦に振ることができなくなっていた。

それでも、ヴァイオリンをあきらめきれなくて星奏学院に転校を決めた。

オケ部に入ってたくさん練習し、全国大会を優勝して
ジルベスタ―コンサートも成功させて。

ひたすら駆け足でヴァイオリンと向き合って前に進んでいたら
いつの間にか純粋にヴァイオリンを楽しめるようになっていた。

そしてやっと、小さいころ祖父の目の前で
ヴァイオリンを弾いていた時の楽しい気持ちを思い出せた。

だから、今ちゃんと伝えたいと思った。

「ヴァイオリン大好きだよ」って。

は大きく背伸びをして、よしっと気持ちを入れなおすと
足早に実家に向かった。
























「ったく、本当にあいつは・・・」

携帯の画面を見つめて響也は大きなため息をついた。
見つめる先は、今朝届いていたからのメール。

『突然だけど、今日から3日間長野のおじいちゃんのところに行ってきます!
今日の始発の高速バスで出て、日曜日は昼過ぎに帰ってくる予定です。
あんまりゲームしすぎちゃダメだよ。』

時計をみると既に9時を過ぎていて、響也はやれやれと苦笑しながら
荷物をまとめ始めた。

の行動に、もうちょっとやそっとのことじゃ驚かなくなった自分がいる。
振り回されても、それすら嬉しいと思ってしまうのは
巻き込まれるのは、の一番傍にいる俺しかできない特権だから。

「次の高速バスには間に合うか」

大きなあくびをして、まとめた荷物を手に取って部屋を後にした。

























まだこの地を離れて半年ぐらいしかたっていないのに、懐かしい道。
その道を歩いていくと、目の前に見慣れた家が見えてきた。
駆け足で近づいて、急いで玄関のカギを開けて家の中に入った。

「おじいちゃん!」

実家のリビングに会いたかった祖父がいた。

「お〜、!元気そうじゃな!」

の顔をみると祖父はソファから立ち上がって両腕をひろげる。
その腕の中には思い切り飛び込んだ。





感動の再開を果たすと、と祖父はリビングのソファに座って話をした。

星奏学院のことや、全国大会、そしてジルベスタ―コンサートの話。

祖父は明るく笑って話すをみて、安堵の胸をなでおろし、
満面の笑顔での話に相槌をうっていた。




話し始めてから数時間が経ち、少し日が傾き始めた時だった。

 ピンポーン

突然ドアベルがなる。

は玄関に向かうために立ち上がろうとしたが、
祖父が大丈夫とを止めて、玄関に1人向かっていく。

ドアベルは、その後何回か連続して続いた。

 ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン・・・

玄関を開ける音がすると、ドアベルの音は止まったが、
今度は祖父の大きな笑い声が聞こえてきた。

「ドアベルの鳴らし方といい、そうじゃと思ったわ!」

あっははと豪快な笑い声に、は「もしかして」と思い玄関に足早で向かうと
そこには案の定のよく知る人物が立っていた。

「響也!!」

は響也の顔を見て驚いた。
響也は少しふてくされた顔で口を開いた。

「お前なぁ、一番大事なもん忘れてるだろ」

その言葉を聞くと同時に、はうれしくなって響也に抱き着いた。

「うれしい、ありがとう!」
「うおっ!」

それを受け止める響也も照れくさそうに顔を緩ませる。

祖父に会いに行くと決めたのは昨夜寝る前。
本当は響也を誘って来ようと思っていたが、
3連休に買ったばかりのゲームをやると嬉しそうに言っていたため
遠慮して言うことができないまま出発。

「どーせ、俺に迷惑かけるとか思って声かけなかったんだろ」
「う・・・」
「ばーか」

おでこに優しいでこぴんを一つされるも、
何でもお見通しの響也には笑った。

祖父はそんな2人の関係をみて、ふっと顔を緩ませた。

「そうか、そうか。そういうことか」

その言葉で、響也は今の状況に気づき、顔を赤くしてからぱっと離れた。

「な、な、なんだよ!」
「まぁ、遅かれ早かれいつかそうなると思ってたからな。響也はずっとーーーー」
「ああああーーー!!ちょ、タンマ!!」

祖父の言葉を遮って大きな声を出す響也。
その二人のやり取りをみては声を出して笑った。


















3人でたわいもない話をして時間が過ぎていく。

の作った夜ご飯を3人で食べて、
そのまま食器などの後片付けをしているときに
は響也に相談をして、祖父にヴァイオリンの生演奏をプレゼントすることにした。

がどうしてもこの3連休に来たかった理由。

それはと響也にヴァイオリンをくれた日が13年前の今日だったから。
その話を聞くと響也も忘れていたようで、驚いていたがすぐに賛同してくれた。

祖父は二人に促されて、ソファに座る。

その目の前で、と響也はお揃いの祖父からもらったヴァイオリンを弾き始めた。

2人で最近練習していた、響也の好きなヴィヴァルディの
「2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調」第一楽章から第三楽章までの3曲を。

と響也の表情、そしてその2人のヴァイオリンで表現される美しくて暖かい旋律。
『ヴァイオリンが好き』という気持ちや感謝が2人から伝わってきて、
祖父の目にはいつの間にか涙がにじんでいた。













ーーーーーーーパチパチパチパチッ

演奏が終わると、1人の観客から大きな拍手が聞こえた。

「二人とも本当にいい演奏家になったなぁ」

そういった祖父の表情は大きな笑顔で、
素直に褒められて2人も笑顔になって目を合わせて笑った。

祖父にヴァイオリンを聞かせてあげられたことに、は満足してうれしくなった。
そしてそんな嬉しそうなをみて響也も幸せを感じた。













しばらくして、祖父は少し仕事が残ってるといってヴァイオリン工房へ。
と響也は2人きりになった。

リビングで、テレビをみながらくつろいでいると、
いつの間にか、隣に座っていたは寝息をたてていた。

それに気づいた響也は、「仕方ねーな」とつぶやくと
そっとを抱き上げて、の部屋に向かう。

自分の家のように、慣れたようにの部屋までたどり着くと、
ベッドの上に寝かせての体に布団をかけた。
そして、「おやすみ」と、おでこに軽くキスを落とす。

そのまま静かに部屋から出ようとすると、
ふとの部屋に飾られた賞状やトロフィが目に入る。
その隣に飾られていた写真の中の小さなは、トロフィと賞状をもって笑っていた。
写真は小さいときの写真がほとんどだった。

その笑顔に懐かしくなってそっとその写真に触れる。














コンクールで賞を取っていたときは
周りはに近づいて、ちやほやして。
ヴァイオリンがうまく弾けなくなった途端、
突然顔色を変えて、と距離を置いて陰口をたたいて笑っていた。

心無いことを言われるたびに傷ついて、
ヴァイオリンを弾くことを怖がっていく

つらいとか、悲しいとか、泣き言なんて律や俺の前では決して言わないけれど、
1人部屋の中で隠れて泣いているを俺は知っていた。

だけど、うまく励ます言葉が見つからなくて
閉じられた部屋のドアの外で、ただ立ち尽くすしかできなかった。

守ってやりたいのに、何をしていいかわからなくて。
自分の未熟さにただ憤りを感じていた。

そんなある日、またいつものようにが泣いて部屋に閉じこもっていた時だった。
ドアに手を触れるも、開けることができずに唇をかみしめる。

とつぜん、頭をくしゃっと撫でられて、その手を辿って見上げると
優しい顔をしたの祖父がいた。

『・・・あいつさっきからずっと泣いてるんだ』

そう小さくつぶやくと頭をさらにくしゃくしゃに撫でられた。

『・・・今みたいにずーっと傍にいてやるだけでいいんだ。
は響也がいれば何回泣いても、また笑えるようになるから』

の祖父は小指を俺の前に俺の前に突き出した。

『だから、約束してくれないか。これからもの傍にいるってことを』

俺は迷うことなくその小指に自分の小指を絡ませて頷いた。

小さい胸の中に決意を込めて。

『じじいに言われなくても、そのつもりだよ』
『男同士の約束だぞ』

あの時交わした指切り。


写真に触れて、その約束をふと思い出して、響也は顔を緩ませた。
そして静かに彼女の部屋を後にした。

















そして、3連休の最終日。横浜に戻る日。
2人は祖父に見送られて実家を後にした。

しばらく2人で手を繋いで歩いていると、響也が突然立ち止まる。

「どうしたの、響也?」
「わるい、ちょっと忘れ物した」

そういって、の手を放して駆け足で歩いてきた場所を戻っていく。










庭に立っていた祖父は引き返してきた響也に気づいて目を丸くさせた。

「ん?どうした?」

息を切らした響也は、の祖父の前に立つと息を整えるため、小さな深呼吸をした。
そして、にっと笑った。

「あいつは一生かけて守るから、じじいは安心してこっから見守ってろよ」

その約束にも似た宣言に、の祖父は顔を緩ませて笑った。

「ああ、頼んだぞ」

響也はくるりと背を向けて、またの元へ走って戻って行く。

の祖父は小さくなっていく響也の背中を見送っていると
小さいころの響也と重なり、あの時の約束を思い出し小さく笑った。















この先君が何度躓いても 泣いても
傍にいて 笑顔に変えるから
I will protect you for the rest of my life.







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ジルベスタコンサート後の3年生になる前の3月。
2人は恋人同士で、故郷の長野に帰って。というお話です。
小さいころから、のこと大好きだったんじゃないかと妄想SSです。

いろいろ大地や新のSSを途中まで書いてたんですけど
コルダ4のイベント見返しだ!と思って
響也のエピローグとか、告白シーンとかまた見たくなって
コルダ3に比べると落ち着いたなーってときめいて、騎士のように
主人公を見守るお話を書きたくなってざっと書いてしまいました。
設定などで捏造も多々ありですが、お許しください。

やっぱり響也好きだー!

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