One of them




「・・・はぁ・・・」

はベッドの上で今日何度目かになるため息をついた。
明日は高校生活最後の文化祭。

1か月前にクラスで何をするか投票の結果決まったものが、生演奏付メイド喫茶。
簡単に言えばメイド喫茶にアンサンブルの生演奏がついているものである。
高校生活最後は少し変わったものをと多数決で決定したのだが、は目の前にある洋服を見てため息をついた。

「これを着るの・・?」

本当は男女関係なくくじ引きで当たった数人だけが着ることになっていたのだが、
クラス委員からの提案で、男子がきるのは目に毒なので中止し、クラスの女子全員がメイド服を着用するということになった。

そして本日衣装担当から手渡された洋服は、ふりふりスカートのかわいいメイド服。

手渡されたメイド服をみるだけで顔から火が出そうになるが、
周りのクラスメイトはこんな時にしか着れない!と意外にも乗り気で
1人だけ着ないと宣言するわけにもいかず憂鬱な気分のまま帰宅して今に至る。

もう一度大きなため息をつくと同時に、メールの受信を告げる音がなった。





受信トレイ
11/2/xxxx 21:59
From: 榊 大地
明日
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明日大学の講義が休
講になって、文化祭に
行けることになったよ。

ちゃんの時間が
できたら、一緒に回ろ
う。クラスの出し物も
オケ部の演奏も、楽し
みにしてる。

それじゃ、おやすみ。
いい夢を。










「うそだーーーーーーー・・・・」

彼氏からのメールに、うれしい気持ちの反面は複雑な心境で携帯電話の画面を見つめた。

もともと大学の講義で文化祭に来れないと聞いていたのもあり
メイド服の話は一切伝えておらず、彼に隠し事をしているような気分になってしまう。

「生演奏する喫茶店としか言ってないからなぁ・・・」

大地がメイド姿の自分をみて、どんな反応をするか想像もつかないため不安が募る。
何度か「明日はメイド姿なんで・・・」とメールを書こうとするも、
さすがに引かれるのではと、途中で恥ずかしくなり文章を何度も削除した。
結局最終的に「会えるのを楽しみにしています!」とだけ返信し、はもう一度大きなため息をついたのだった。




























(・・・懐かしいな)

文化祭当日、大地は星奏学院に到着すると足早に彼女のいる場所へ向かう。

卒業してから、を迎えに正門前までは来る機会があったが
校舎の中に入ったのは卒業式以来だ。

星奏学院は文化祭のためか、人が多く賑やかだった。

後輩や先生、そして卒業後久しぶりに会った友人など文化祭には知った顔が多くいて
途中知り合いを見つける度に軽くあいさつをした。

それでも彼女に会いたい気持ちを抑えきれずに、毎回話を早めに切り上げながら、
足早に彼女のもとへ向かう。

そして、音楽科の校舎に入り3年生の教室がある廊下を歩いていると
目の前にハルと七海、支倉の3人が話しているのが目に入った。

支倉は近づいてくる大地に気がついたのか、にやにやと笑みを浮かべる。

「みんな久しぶりだね、元気だったかい?」

3人に声をかけると、ハル、七海も大地に気づき振り返って挨拶をする。

「榊先輩、いらしてたんですね!お久しぶりです」
「お久しぶりです!」

ハルと七海の二人は大地に向かって話を続けようとするが、顔は赤いままだった。
支倉と何を話していたのかわからないが、彼女の含んだ笑みが気になり、とりあえず聞いておくことにした。

「それにしても、二人ともそんなに顔を赤くして、どうしたんだい?」
「「え!?」」

大地からの指摘で突然驚いた声を出す2人。
一瞬ハルと七海は顔を見合わせると、言いづらいことがあるのかそのまま黙ってしまった。
その様子をみて支倉は笑い出した。

「君のお姫様がこんな風にさせたようだよ」

その一言に胸騒ぎを覚える。

ちゃんが?・・・・・どういうことだ?」
「実際に自分の目で確かめたらいいさ」

そういって支倉が指を指した先は目的の教室。
大地はなんとなく悪い予感がして、すぐにその場所へ向かった。
























、これAテーブルに頼む!」
「はーい、了解!」

はクラスメイトから頼まれた飲み物を手に取り、テーブルまで運ぶ。
変に自分の格好を意識すると恥ずかしくなるので、そのことを忘れるぐらい一生懸命接客をしていた。

交代する時間まであと5分。
このまま彼が現れずに時間が過ぎれば、
メイド姿をばれずに一緒に文化祭を回ることができる!と
一筋の希望の光が見えてきた時だった。

「すいませーん」

先ほど来店した男性客二人が自分に向かって手を振っている。
は最後の客だ、がんばろう!と思いながら客のもとへ向かった。

「いらっしゃいませ。ご注文は何になさいますか?」
「じゃぁ、ジンジャエールと、チャイで!」
「ジンジャエールとチャイおひとつずつですね。少々お待ちください」

は注文を取り終えると、すぐに簡易キッチンの方へ戻ろうとするが、
それを拒むように左の手首を男性客の1人が掴んだ。

「?!」

手を掴まれて驚いて振り返ると、男性客2人がにやにやとこちらを見ている。
見たところ、星奏の生徒ではない他校の生徒だった。

「君さ。去年の冬に合奏団で仕切ってたちゃんでしょ?」
「はい、そうですけど・・・」
「あ、やっぱり!俺君のファンなんだよね!ジルベスタ―コンサートも行ったよ!」
「俺も俺も!にしても、メイド服かわいいなぁ〜!」

道端でナンパされるだけだったなら何とでも言い返してかわせるだろう。
ただ、今は合奏団のファンということや、喫茶店のお客様ということもあり
さすがに無碍にできず作り笑いが精いっぱいで。

「ありがとうございます。飲み物をお持ちしますので、少々おまち・・・」
「俺すぐそばの高校に通ってる3年の坂下っていうんだけど、メアド教えてよ!」
「あ、おまえだけずりーな、俺もお願い!」
「・・っつ」

どうにか手を振りきって逃げようとするも、さらに握っている力が強くなり痛みを感じる。
少し恐怖を感じて、クラスの誰かに助けを求めようと振り返ろうとした時だった。

突然背後から大地が現れて、の腕をつかんでいた男性客の手首を思いっきりつかんだ。

「いてっ!!」
「はい、そこまで」

男性客は痛みのあまりとっさに手を放す。
が自由になった隙に、大地はそのまま彼女を自分の腕の中に引き寄せた。

「お客様、当店ではそういったサービスは行っておりませんのでご了承ください」

大地は場の空気を壊さないように男性客に笑顔を向けているが、その笑顔の裏に怒りが見える。
隠そうとしているようだが、全く隠れていない。
その怒りを察し、恐怖を感じたのか、男性客はそのまま下を向いて黙り込んでしまった。

は胸をなでおろした時だった。
突然足が宙を舞う。

「・・・えっ!」
ちゃん、とりあえず保健室いこうか」

そういって、突然をお姫様抱っこをし、抱き上げたまま教室の外に向かって歩き出した。
クラス中の視線が集まっていて恥ずかしく、
降ろしてほしいと訴えても大地は聞く耳を持ってくれない。

「彼女の手首が少し腫れているから、保健室につれていくよ。いいかな?」

大地はのクラスメイトに了承を得ると、そのまま保健室に向かった。



























「はい、手首を出して」

大地はの腕を優しくつかみ、少し赤くなった手首に冷たいタオルを巻いた。

「少し冷やせば赤くなったところの痛みは消えると思うよ」
「ありがとうございます・・・」

文化祭のため忙しいのか、先生がいない保健室に二人きり。
ベッドの縁に座っているは、緊張した表情で目の前で手当てをしてくれている大地の顔を見る。

「助けにきてくれてありがとうございます、あと・・・この格好のこと恥ずかしくて言ってなくてごめんなさい」

申し訳なさそうに謝る彼女をみて大地は微笑んだ。
そんな彼女を安心させようと、優しくの頭をなでる。

「確かに、事前に教えてくれていたらもっと早く来ていたかな」
「え・・」
「誰にもきみのそんな可愛い姿を見せたくないからね。きっと事前に知っていたらどうにかして
君を外に連れ去る方法を考えていたよ」
「大地先輩・・・」

大地の言葉を聞いては顔を赤くした。
その姿があまりにも可愛くて、大地はのおでこにすかさず優しいキスを落とした。

ちゃんに今度から何でも話してねっていうお願いと、もう一つお願い」
「もう一つ?」
「どんな男も簡単に信用せずに、いつも警戒心を持つこと」

去年と違って、今は高校生と大学生。
すぐに助けに駆けつけることができないから、できるだけ警戒心をもって気を付けること。
いいね?

そういうと、は頷いて微笑んだ。

「大地先輩、いつもありがとうございます。本当に大好きです!」
「・・・っ」

突然のの可愛い告白に、大地は高鳴る鼓動を抑えきれずに、
をそのままベッドに優しく押し倒した。
メイド服姿の可愛い彼女に、理性などおさえることなんて到底できなくて。

ちゃん、さっきも言ったけど、俺も男だから」
「え?」

耳元でささやかれる言葉には顔を真っ赤にする。

「・・・ちゃんと、警戒心をもってね?」

そのまま大地は、今まで以上に深くて甘いキスを落とした。
その後、保健室がしばらく使えなくなっていたのはまた別のお話。
















男はみんなオオカミだから気を付けて。
彼もその一人

one of them








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コルダ4をやって大地のイベントがほとんど甘くてびっくりしました。
保健室のイベントが想い、想われ√ともにドキドキでした。
という流れで、保健室の甘い二人を書きたくて、妄想SSに。




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